パラドックス

「フレンチパラドックス」という言葉を聞いたことはありますか?フランス人は喫煙率が高く、飽和脂肪酸を多く含む食事を摂取しているにもかかわらず、冠状動脈性心疾患に罹患することが比較的少ないという疫学的な観察のことをいいます。

 

赤ワインが心疾患の発生を抑えるのに役立っているという仮説がアメリカのテレビ番組で放送されたのは1991年で、赤ワインの消費量が44%も増えたそうです。日本でも一時期、赤ワインがブームになりましたね。

 

ちなみにフレンチパラドックスがなぜ起こるかは未だ解明されていないようです。

 

フレンチパラドックスほど有名ではないかもしれませんが、「ヒスパニックパラドックス」というのもあります。

 

ヒスパニックとはスペイン語、スペイン文化、スペイン人のことですが、ここでいうヒスパニックは「ラテンアメリカ系アメリカ人」、つまり中南米に祖先を持つアメリカ人ことを指します。

 

真木は高校生の頃、アメリカのニューメキシコ州に留学していました。画像は真木が通っていた当時のアラモゴード高校の高3の皆さんです。真木は2年生だったので写真には写っていません。画像が小さいので見にくいですが、それにしても17・18歳にしては貫禄あると思いませんか~?真木はよく小学生と間違えられていました😓

 

ところで写真を見ると、いわゆる白人と同じくらいヒスパニックの生徒が写っています。白人でも髪色が濃い人はいますので、髪の毛の色だけでは判断できませんが、黒に近い髪色の生徒はほとんどがヒスパニック系です。

 

ニューメキシコ州はメキシコに近いので、ヒスパニック系が多いことは知っていましたが想像以上の多さでした。地図の黄色の丸で囲んだ所がニューメキシコ州です。これは2011年の統計によるものですが、色が濃いほどヒスパニック系の人口が多いことを表しています。地図で見ると他の州を圧倒して多いのがわかり、今更ながらびっくりしました。

 

 

アメリカに暮らすヒスパニック系はアングロサクソン系(いわゆる白人)と比較すると、教育レベルは低く、貧困率は高く、受けられる医療ケアの質も低いという統計があります。

 

日本は国民皆保険制なので、誰もが同程度の医療を受けることが可能ですが、アメリカでは保険に加入していない人たちも大勢います。そういう人は当然ながら年収が低い層に多く、保険未加入率の人種ごとの比較ではヒスパニック系が最も高いそうです。保険に加入していなければ医療費は日本では考えられないような高額なものになるので、保険未加入者は調子が悪くても病院には行かない、行けないということが往々にしてあるようです。

 

アメリカの保険制度について書いているうちに、ホームステイ先で微熱を出した時のことを思い出しました。ホストファミリーのお母さんに病院に連れていってもらったのですが、病院に行くかどうかをかなりしつこく聞かれたました。病院でもお医者さんに薬が欲しいかどうかを聞かれ、「それを決めるのは先生の仕事でしょうがー!」と内心思いつつも、一応出してもらったところ、2万円くらいかかってあまりの高さにビックリした記憶が蘇ってきました。ホストファミリーのお母さんがしつこく確認してきたのは、微熱ごときで保険未加入者が病院に行くと痛い目に合うぞということだったのかもしれません・・・。

 

保険未加入率が高いヒスパニック系は、他の人種と比較し、高コレステロールや高血圧、高血糖のコントロールができていない人が多いそうです。ところが・・・なぜかヒスパニック系は寿命が長いのです。グラフは濃紺がヒスパニック系、水色が黒人、緑が白人、薄い緑がその他の人種を表しています。

 

左上の「Both sexes」と書いてあるのは男女混合の平均寿命、その下の「Male」は男性のみ、「Female」は女性のみの平均寿命を表しています。どれもヒスパニック系がトップです。

 

アメリカに暮らすヒスパニック系は他の人種と比較し、十分な医療、質の良い医療を受けられていないにもかかわず寿命が長い、これが「ヒスパニックパラドックス」です。

 

なぜアメリカのヒスパニック系は長生きなのか・・・この疑問に対する様々な仮説がたてられました。例えば「ヒスパニック系は運動する人が多いのではないか」という仮説がありましたが、これは否定されました。ヒスパニック系はアングロサクソン系よりも運動習慣がないという調査があったのです。

 

「喫煙率が低いから」という仮説もありました。ヒスパニック系の喫煙率はアングロサクソン系より確かに低いそうですが、非喫煙者のアングロサクソン系との比較でもヒスパニック系の寿命は長いそうで、この仮説も否定されました。

 

残る仮説は「食べ物」です。ヒスパニック系が他の人種よりよく食べる食べ物、それは・・・

 

豆です。画像はよくあるメキシコ料理ですが、どの料理も豆が入っています。

 

自分の話ばかりで申し訳ないのですが、アラモゴード高校で一番仲良くなったのは、メキシコからの移民2世の女の子でした。家も近かったのでよく遊びに行っていました。メキシコ生まれのお母さんはお料理がと~っても上手で、よく「ご飯食べていきなさ~い!」と言ってくれました。ホストファミリー先のお母さんは全く料理をしない人だったので、「今日はおいしいご飯にありつける!」と嬉しかったものです。出てくるのはもちろんメキシコ料理で、どれも豆がたっぷりでした。

 

ヒスパニックパラドックスが「豆」の効果なのかどうかは残念ながらわかりません。ただし、ヒスパニック系アメリカ人はアングロサクソン系の3~4倍は豆を食べるというのは事実のようです。

 

2050年には世界の人口は100億に達する予測があるそうです。現在の畜産業の形態のまま食肉の生産量を増やすことは限界があり、このまま人口が増え続けると2025年~2030年くらいからたんぱく質の需要と供給のバランスが崩れ始め、「たんぱく質危機」なるものが来るという話もあるそうです。

 

日本人に最も馴染みのある豆と言えば大豆ですが、大豆の自給率はなんと7%程度だそうです。来るかもしれないたんぱく質危機の代替品としても、豆の自給率をなんとか上げてもらいたいものです。

 

文:真木